こんにちは、nicof worksです。仕事をしていると、突然こんな依頼が飛んでくることがあります。
「先方から契約書が届いたので、確認してもらえますか?」
……ええと、何をどう確認してほしいの・・?初めて契約書レビューを任された人なら、一度は思ったことがあるのではないでしょうか。
「法律に詳しくないとできないのでは?」「不利な条文を見つければいいの?」「修正したら、そのまま先方に返していいの?」
契約書というだけで、急に仕事の難易度が3段階くらい上がった気がします。私は弁護士でも、法務専任者でもありません。
人事として雇用契約書や就業規則を扱ったところから始まり、小規模企業で顧問弁護士と経営者の間に入って契約書を確認したり、役員秘書として法務部門との窓口を務めたり、現在は経営企画として契約管理に携わったりと、事業側の立場から契約実務を経験してきました。
雇用、業務委託、システム・ツール導入、パートナー契約、融資、不動産関連など、扱ってきた契約もさまざまです。そんな「現場からの叩き上げ」で契約書を見てきた私が感じているのは、契約書レビューは、法律知識だけではうまく回らないということ。
契約書の内容が正しいか。それだけではなく、
- 事業として運用できるのか。
- 誰が判断すべきなのか。
- 相手が次の作業をしやすい状態になっているか。
- そして、締結後にちゃんと管理できるのか。
ここまで考えて契約書を返せると、「あ、この人シゴデキだな」と思ってもらえる仕事になります。今回は、私が実務で意識している契約書レビューの5つの気遣いをご紹介します。
はじめに
この記事は、特定の契約について法的判断を提供するものではありません。契約内容や取引状況によって判断は異なるため、法的な判断が必要な場合は弁護士などの専門家へご相談ください。
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Toggle私が契約書を「法律だけ」で読まなくなった理由
私が最初に契約書や法律に触れたのは、人事として働いていたときでした。
採用や労務に携わる以上、雇用契約書や就業規則を読めなければ仕事になりません。そこで社内の法務担当者から、雇用契約書や就業規則の読み方、労働法、36協定などについてかなりしっかり研修してもらいました。
求人原稿ひとつとっても、好きなことを書いていいわけではありません。求人時に提示した条件と実際のオファー条件が違えば、なぜ変更になったのかを説明し、本人に納得してもらう必要がある。会社が自由に決められることもあれば、法律によって守らなければならない最低限のラインもある。
このとき初めて、「会社にとって都合がいいか」だけでは契約を考えられないことを学びました。会社側の事情だけでなく、その条件を提示される労働者側からどう見えるのか。 これが、私の契約書を見る視点の最初の土台になっています。
その後、転職したのは従業員30人ほどの小さな会社。ここでは一転して、「必要なことは、できる人が何でもやる」という環境でした。
採用の仕組みを作ったり、新しいシステムやツールを導入したり、外部のパートナーと提携したり。会社を大きくするために外部の力を借りようとすると、そのたびに出てくるのが契約でした。
ところが、社内には契約書をレビューできる人がいません。それまでは顧問弁護士へ相談していたものの、弁護士が判断できるのはあくまで法的な部分です。
たとえば、「この条文には、こういう法的リスクがあります」と教えてもらうことはできます。でも、「そのリスクを取ってでも、この取引をしたいのか」は、弁護士には決められません。
会社の事業内容、現場の運用、取引の重要性、資金繰りなどを踏まえて、最終的には会社自身が判断することだからです。そこで、顧問弁護士と経営者の間に入ってやり取りする役割を、私が担うようになりました。
分からないことは弁護士に聞く。教えてもらったことを調べる。自社の事業に当てはめて考える。そして、経営者が判断できる形にして返す。
そうしているうちに、気付けば新しい契約のほぼすべてが私を経由するようになり、業務委託やシステム導入だけでなく、融資や不動産取引関連など、さまざまな契約に触れるようになりました。
法務担当として体系的に学んだというより、必要に迫られて、現場で一つずつ覚えていった。 私の契約実務は、かなり「叩き上げ」です(笑)。
現場・顧客・働く人・経営者——立場が変われば「良い契約」も変わる
その後は、法務部門がきちんと存在する会社で役員秘書として働きました。
そこでは、自分が法的判断をするのではなく、役員が進めたい案件について必要な情報を整理し、法務担当者へつなぐ立場になりました。新規取引先のチェックや、業務委託、外部パートナー、採用サービスなどの契約に関わりながら、「事業を進めたい現場」と「リスクを管理する法務」の間をどうつなぐかを経験しました。
そして現在は、経営企画として契約書の作成・レビューだけでなく、締結フローや契約管理の仕組みづくりまで携わっています。振り返ると、私はずっと同じ立場から契約書を読んできたわけではありません。
人事として、働く人の目線から雇用条件を見る。現場として、実際にこの条件で業務を回せるのかを見る。顧客や取引先とのやり取りを通じて、相手は何を守りたくて、この修正を求めているのかを見る。経営者のそばでは、どこまでリスクを取って事業を進めるのかを見る。法務や弁護士と仕事をするときは、法的に何を確認し、どこから先を会社が判断すべきなのかを整理する。さらに管理側として、締結した契約をどう保存し、必要なときに誰でも確認できる状態にするのかまで考える。
こうして一つずつ視点が増えていった結果、今では契約書を見るときに、「この条文は法的に大丈夫か?」だけでは読まなくなりました。
たとえば、一見すると自社に不利な支払条件が提示されたとします。もちろん、自社に有利な条件へ変更できれば理想です。でも、取引先にも社内ルールがあり、どうしても変更できないことがあります。そんなときに見るべきなのは、「自社に不利だからNG」だけではありません。
入金までに、こちらはいくら支出するのか。その間のキャッシュアウトに耐えられるのか。それでも受注するだけの利益や事業上のメリットがあるのか。リスクが大きすぎるなら、前払いではなく一部着手金にするなど、別の方法で軽減できないか。
そこまで考えて初めて、経営者は、「このリスクなら取る」「この条件では受けない」という判断ができます。逆に、法律上は問題のない条文でも、現場で運用できなければ意味がありません。
毎回「書面による事前承諾」が必要なら、誰が・いつ・どの方法で承認を取るのか。契約上禁止したことを、現場が知らずに日常業務でやってしまわないか。契約書に書いたルールを、本当に会社として守り続けられるのか。
契約書は、締結するための書類であると同時に、その後の仕事のルールでもあります。
だから私は、
- 法的に問題がないか。
- 事業として成立するか。
- 顧客との関係として妥当か。
- 現場で実際に運用できるか。
- 働く人に無理がないか。
- 経営としてそのリスクを取れるか。
- そして、締結後にきちんと管理できるか。
という複数の方向から見るようにしています。これは「経営企画だから身についた」というより、人事も、現場も、経営者のそばも、法務とのやり取りも、契約管理も経験してきた結果、身についた視点なのだと思います。
そして、この経験から私が強く思っていることがあります。契約書は、法務だけでは完成しない。法的な判断は、もちろん専門家に確認する。でも、その契約を実際に使う事業を理解している人がいなければ、契約書は会社の中で機能しません。
だから契約書レビューで必要なのは、法律の知識だけではなく、「この契約で、実際に仕事をする人たちはどう動くことになるのか?」まで想像する力。 私はこれが、実務で契約書を見るうえでかなり大切な能力だと思っています。
1.原本を守って、「どれが最新版?」をなくす
まず最初の気遣いは、契約書の中身……ではありません。ファイル管理です。地味ですよね? でも私は、ここに仕事の品質がものすごく出ると思っています。
先方から契約書を受け取ったら、まず原本を保存して、作業用のコピーを作ります。受領したファイルを直接上書きしてしまうと、「先方から届いた時点ではどうなっていた?」を後から確認できなくなるからです。受領時点のファイルも、大切な証跡です。
そして、ファイル名。これは本当にやめてほしい。「最終.docx」「最終2.docx」「最新版.docx」
最終、いくつあるんだー!(笑)
契約交渉では、先方→自社→弁護士→自社→先方……とファイルが何度も往復することがあります。そのため私は、日付・相手先・契約書の種類・状態・版番号などを組み合わせて、ファイル名を見ただけで何のデータなのか分かる状態にしています。
実際、社内マニュアルでも原本と作業版を分け、たとえば「YYYYMMDD_相手先名_契約書種別_案件名_状態_v01.docx」のように管理するルールを設けています。
契約書は、今書かれている内容だけが情報ではありません。誰から届いて、どのように変更され、何に合意したのか。 その経緯も含めて情報です。だからこそ、「どれが最新版か分からない」を作らない。これが最初の気遣いです。
2.変更履歴には「何を」、コメントには「なぜ」を残す
Wordで契約書を修正するとき、私は原則として変更履歴をONにします。そして、変更した理由が相手から見て分かりにくいところにはコメントを入れます。
ここで大事なのが、
- 変更履歴=何を変えたか
- コメント=なぜ変えたか
という使い分けです。
たとえば、「当社の実際の運用上、再委託が発生する可能性があるため、原文維持を希望します」「支払処理の都合上、翌月末払いへの変更をお願いします」など。単に「NGです」と書くのではなく、相手が次の判断をできる情報を残すようにします。
これは、自分がレビューを受ける側になってみると、ものすごくありがたい。条文だけ修正されていると、「えーっと……この修正、どういう意図だ?」と、原文と修正文を読み比べながら相手の意図を推測しなければなりません。
意図が分からなければ、結局、「こちらの変更意図をご教示いただけますでしょうか」というコミュニケーションが1往復増えます。逆に理由が分かれば、「そのリスクを気にしているのであれば、この書き方でも解決できますよ」と別の落としどころを提案できます。
契約交渉では、自社の希望を100%通せるとは限りません。だからこそ、「この文章じゃなきゃ嫌です」ではなく、お互いが何を守りたいのかを理解して、別案を探せる状態にすることが重要です。
ちなみに、文字を赤くしたり、手作業で取り消し線を付けたりして「変更履歴っぽいもの」を作るのもおすすめしません。Wordの変更履歴なら、誰がどこを変更したのかを追えて、変更を承諾・拒否できます。見た目だけ変更履歴風にすると、その情報が失われてしまいます。
3.条文だけでなく、「このルールで本当に仕事できる?」まで考える
ここは、私が契約書を見るときにかなり大切にしているポイントです。法律上問題がないことと、現場で運用できることは別です。
以前、AIの利用に関する契約条項について、先方からかなり細かな修正案が返ってきたことがありました。事前の書面承諾を求めたり、利用するAIツールについて非常に詳細な情報開示を求めたり……。
一つひとつ読むと、「なるほど、AI利用のリスクを厳格に管理したいのかな」と思える内容でした。でも、実際の業務プロセスに当てはめてみると、「これ、事実上AIを使えない条件では?」というレベル。
一方、そのお客様からは業務効率化も期待されていて、お客様自身もAIを活用していると聞いていました。そこで、「この条件をすべて運用すると、実際にはこういう手続きが必要になります。AIを利用しないことを意図した修正でしょうか?」と確認してみました。
すると、そうではありませんでした。先方もAIを利用した契約書チェックを行い、提示された修正案をそのまま反映していたとのこと。
もちろん、AIを使って契約書を確認すること自体が悪いわけではありません。問題は、その条文を採用したら、実際の仕事がどう変わるのかまで想像できているか。 です。
「書面による事前承諾」と書いたら、誰が申請する? 誰が承認する? 毎回必要? メールでいい? 電子契約が必要? どこに証跡を残す? という業務が発生します。
契約書は、締結した瞬間に役目を終える書類ではありません。締結後の業務ルールを定めるものでもあります。
だから私は、条文を読むとき、このルールで、現場は本当に仕事できる? まで想像します。この視点がある人から修正案が返ってくると、私はかなり「おっ、この人分かってるな」と感じます。
4.全部自分で判断しない。「誰が決める話か」を整理する
契約書レビューを任されると、「私がOK・NGを判断しなきゃ」と思ってしまうかもしれません。でも、実務ではむしろ逆。仕事ができる人ほど、「これは誰が判断すべきことか」を切り分けています。
たとえば、法的に問題があるのかは、法務・弁護士の判断。一方、「このリスクを取ってでも、この取引を進めるのか」は経営判断です。
実際、私が作成した社内の契約運用マニュアルでも、契約管理・法的判断・経営判断で相談先を分けています。条文変更や特別対応を担当者が独断でOK・NGと回答せず、必要な判断者へつなぐ運用です。
たとえば、支払条件。自社としては前払いが理想。でも、大手企業との取引では、「弊社の支払サイトは変更できません」と言われることもあります。そんなとき、「前払いじゃないのでNGです!」で終わらせるのではなく、
- 入金までに自社からいくら支出するのか。
- そのキャッシュアウトに耐えられるのか。
- この取引の利益はいくらなのか。
- そのリスクを取ってでも受注したい案件なのか。
まで整理します。
入金が後でも十分耐えられるなら、条件を受け入れる判断もあります。反対に、先行支出が大きすぎるなら、「この条件では当社側の負担が大きいため、前払いまたは一部着手金が必要です」となるかもしれません。
ここで必要なのは、法律知識だけではありません。事業を理解したうえで、経営者が判断できる材料へ翻訳すること。 私はこれも、契約書レビューの重要な仕事だと思っています。
シゴデキ=何でも自分で決められる人、ではありません。必要な論点を整理して、決めるべき人が決められる状態を作れる人。 これが大事です。
5.「自分が返したら終わり」ではなく、次に触る人まで考える
そして最後。個人的には、これが一番「気遣い」という言葉に近いかもしれません。自分の作業を終わらせることではなく、次にそのファイルを触る人が仕事をしやすい状態で渡す。
以前、契約書を社内で修正してもらったときのこと。先方とWordの変更履歴・コメントを使ってやり取りしていた契約書に、小さな修正をお願いしました。すると返ってきたのが……PDF。 まだFIXしてないのに。
しかも私はそのことに気付かず、そのPDFを弁護士へ最終レビューとして送ってしまいました。弁護士も「ん?」となりながらPDFへコメント。気付いたころには、先方のコメント、社内の修正、弁護士のコメント、それぞれの変更経緯が追えなくなっていました。
結果、2回分くらいのやり取りを遡ってやり直す羽目に。 「何回分の仕事をやり直すんだよ……!」となりました(笑)。
ただ、後から聞くと、対応したメンバーは契約文書を扱った経験がほとんどなかったそう。そこで私も、「ああ、これは知っている人にとっては当たり前だけど、教えなければ分からないことなんだ」と気付きました。
それ以来、社内マニュアルにも、
- 交渉中=Word
- 合意後=清書Word+PDF
という役割の違いを明記しています。PDFで返すこと自体が悪いわけではありません。問題なのは、相手の次の作業を考えずに、ファイル形式を変えてしまうこと。
これは書式も同じです。フォントや余白、条番号などを理由なく変更すれば、本当に確認してほしい契約内容の差分が埋もれます。場合によっては、相手に「元の書式へ戻す」という余計な仕事まで発生させます。
契約交渉が終わった後も同じです。双方が合意したら、変更履歴を承諾し、不要なコメントや文書情報を削除して清書Wordを作る。そこからPDFを作成し、
- 本文は一致しているか。
- ページ数は合っているか。
- 条番号や表は崩れていないか。
- 署名欄は欠けていないか。
- コメントや変更履歴が残っていないか。
まで確認する。
そして、送っただけで安心しない。ちゃんと締結されたかまで確認する。契約書は送付しただけでは終わりません。社内マニュアルでも「送付=完了ではない」として、締結済みであることまで確認する運用にしています。
これで、ようやく完了です。
契約書レビューは、「間違い探し」ではない
私は法務専任者としてキャリアを積んできたわけではありません。
最初は人事として、雇用契約書や就業規則を読むところから始まりました。その後、小規模企業で「できる人がやる」環境に入り、顧問弁護士へ相談しながら契約書を読み、経営者へリスクを説明し、現場で運用できる形を考えてきました。さらに、法務部門のある会社では事業側と法務側の橋渡しを経験し、現在は経営企画として契約の作成・確認・締結・管理まで横断的に関わっています。
いわば、現場からの叩き上げです。だからこそ、契約書を見るときには3つの視点を意識しています。法務の視点。事業・現場の視点。そして、管理の視点。
法的に問題のない契約書でも、現場で運用できなければ意味がない。事業にぴったりの条件でも、法的なリスクを無視してはいけない。そして、どれだけ時間をかけて良い契約書を作っても、「最新版どこ?」となって必要なときに取り出せなければ、せっかくの契約書が社内の資産として機能しません。
契約書レビューは、赤入れをして終わる仕事ではないんです。契約を、ちゃんと事業で使える状態にして次の人へ渡す仕事。
そう考えると、変更理由をコメントすることも、ファイル名を整えることも、弁護士に相談することも、経営者へリスクを翻訳することも、Wordで返すことも、全部が一本につながります。これらは高度な法律知識がなくても、明日から少しずつ実践できることです。
契約書が届いたら、条文だけを見るのではなく、「このあと、この契約書に関わる人が仕事をしやすい状態になっているかな?」と一度考えてみてください。その小さな気遣いの積み重ねが、「あ、この人に任せると仕事がスムーズだな」という信頼につながっていくと思います。
そしてたぶん、それが一番の——「シゴデキ!」です。